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労務
2021.04.03
リゾートや地方で休暇を取りつつ仕事もするという働き方で注目を集めている「ワーケーション」。2020年7月に環境省が推進する方針を打ち出したことにより、各自治体でもワーケーションを支援する動きが増えてきています。
しかしながら、企業でワーケーションを導入するためには、さまざまな課題や検討事項があり、企業での導入には慎重にならざるを得ないという担当者や経営者も多いようです。今回は、人事総務担当者が知っておくべき、ワーケーションの概要、導入におけるメリットとデメリット、ワーケーション導入時のポイントについて解説いたします。
目次
ワーケーションとは、「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語です。オフィスを離れ、観光地やリゾート地といった旅先で、休暇を過ごしながら働くことを意味します。発祥は2000年代のアメリカで、ヨーロッパに比べて有給休暇の取得率が低いという課題解決のため、「仕事をしながら休暇を取れる制度」として始まりました。近年働き方が多様化してきた影響で、あらためて注目を集めています。
「ワーケーション」と「テレワーク」の違いとは?
リモートワークやテレワークは、「オフィスと違う場所で仕事をする」という点では同じですが、ワーケーションはただ違う場所であるだけでなく、ビーチやリゾート、温泉街などの休暇先で「休暇を前提として、好きな場所で休みながら働く」という点が大きな違いです。テレワークは仕事を行うことが主目的に対して、ワーケーションはあくまで休暇が主目的になっています。
日本では、2019年にワーケーションに取り組む全国の自治体が集結し、「ワーケーション自治体協議会(Workation Alliance Japan)」が発足しています。和歌山県、長野県、北海道、沖縄県など、現在179(1道21県157市町村)の自治体が参画しています。
また、国も2020年7月環境省が補助金の支給を決めるなど、ワーケーション普及に向けての動きを強めています。この補助内容は国立・国定公園、国民保養温泉地のキャンプ場・旅館・ホテル等で実施するワーケーションツアー等の企画・実施費用、ワーケーションやリモートワークのためのWi-Fi設備の整備、スペース改装、設備改修等となっています。
いつものオフィスから離れた環境で、心身をリフレッシュしながら仕事をすることができます。旅行先での休暇を楽しみつつ、仕事にも集中して取り組めることから、新たなアイデアの創造・生産性の向上にも期待ができます。また、越境的な学習などの機会が生まれ、従業員のモチベーション向上につながる施策といわれています。
以前から日本社会で問題となっているのが、有給休暇の低取得率です。会社によっては、「有給休暇を取りづらい」「長期休暇を取りづらい」といった有給休暇を取得できない状況が見られます。ワーケーションの導入によって、従業員が休暇取得しやすい環境づくりにつながります。
「働き方改革」に取り組んでいる企業であることを、社内外にアピールすることができます。柔軟な働き方が推奨されていることは、企業の魅力のひとつとして、従業員に対してだけでなく、採用活動にて応募者への動機づけにもなり、新しい人材を確保する効果も期待できます。
遠隔地で仕事をするには、インターネットやVPNが使える環境を整えることが必要となります。パソコンなどのハードウェア、オンライン会議ツールやチャットツールなどのソフトウェアを用意する必要があります。すでにテレワーク実施が浸透している企業にとってはそれほど障壁にはなりませんが、新しく導入する場合には、ある程度のコストがかかります。
オフィス以外の場所での就業において、パソコンやタブレット端末、スマートフォンの盗難や紛失による情報漏洩、不特定多数が接続する公共のフリーWi-Fiなどに接続することで、機密データが漏洩してしまう危険性があります。企業が環境整備をするのはもちろんのこと、従業員もリスクの認識と対策を徹底することが大切です。
オフィスと離れた場所で仕事を行うため、勤務状況の把握や仕事に対する評価が難しくなります。役割分担を明確化することや、オンライン会議システムやチャットツール、勤怠管理システムなどを導入し、円滑なコミュニケーションを促し、業務の進捗共有を行う工夫が必要です。テレワークも同様ですが、時間管理をせず成果をもって評価する、新たな働き方に合った評価制度を運用することも重要な検討事項です。
ワーケーションは新しい働き方として期待されていますが、導入にあたっては、仕事の時間とプライベートの時間の区別が曖昧になるために、発生する課題がいくつか想定されます。以下では、労務管理の観点からワーケーション導入時の課題と対策案について、ご紹介します。
労働時間の認定については、業務に合わせて「勤怠管理アプリで労働時間を報告する」「事前にみなし労働時間を申請する」「会議出席やレポート提出など、特定の業務の遂行を持ってその日の労働とみなす」などのルールを明確にすることが現実的な対応策となるでしょう。
有給休暇については、半日単位・時間単位で取得できるようにすることで、「午前は仕事をして、午後は休暇を取る」などの働き方ができるようになり、「休暇」と「労働時間」が明確に区別されるようになります。
また、勤務形態については、ワーケーションの導入とあわせて、週や月単位で勤務時間を融通できるフレックスタイム制を導入することで、従業員はより休暇と仕事のバランスが取りやすくなるのでオススメです。
ワーケーション中の移動や活動を業務とみなすか、休暇とみなすかによって、事故が発生した際の労災(業務上のケガや疾病などを保証する制度)の適用可否が分かれます。そのため、従業員から業務活動を申請してもらい、会社が把握し承認している業務活動中に発生した事由は労災と認定する、という運用になるかと思います。
ワーケーションは休むことが前提にありますが、業務を行うことも求められているため、滞在先までの移動費や宿泊費などを誰が負担するのか曖昧になりやすいです。出張などと同様に、「ワーケーション滞在先として企業が指定した宿泊先・ワークスペースに限り費用負担する」「企業の費用負担には、上限金額を設定する」など明確なルールを制定し、周知することが必要になります。
コロナ禍をきっかけに人々のライフスタイルや価値観も変容し、企業や社会のあり方も大きく変わりつつあります。
ワーケーションは、まだ日本全体には浸透しておらず、企業の制度として定着するのはこれからだと思います。しかし、今後も進化し続けるニューノーマルな時代の中で、「時間」や「場所」に捉われない柔軟な働き方のひとつであり、企業や従業員の成長、地方創生への寄与など、そこから新たな価値が生まれる大きな可能性を秘めていると感じます。
先月、弊社でもワーケーションを実践してみましたので、【ワーケーションとは?(後編)】にて、リアルな内容をお届けできればと思います。導入をご検討されている企業の方のお役に立ちましたら、幸いです。
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