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労務
2020.07.12
労働人口が減少し、人手不足が続く現代。介護離職は、今や企業の間だけではなく、政府をあげて取り組む社会課題となっています。
この記事では、そんな介護離職の現状と、介護離職に潜むリスクについてを詳しく解説。その上で、介護離職を引き起こさないためにはどうしたらいいか、具体的な対策方法について、まとめていきます。
介護離職とは、家族の介護・看護をするために、仕事を辞めることです。時間や体力的な面から、仕事と介護の両立が困難になり、仕事を辞めざるを得ない状況に陥ってしまうことが、主な原因となっています。
介護離職をする男女の割合は、男性よりも女性の方が多いとされ、女性の社会進出の阻害要因としても挙げられている問題の一つです。経済産業省は、介護離職によって、1年あたり約6,500億円もの経済損失が発生しているという見込みを発表しています。つまり、介護離職が起こることで、日本経済全体で約6,500億円もの価値を失っているということになるのです。
介護離職による離職者数は、2017年には約9万人となっており、2007年のデータと比べると、10年間の間でおよそ2倍に増加しています。男女比を見ると、男性の介護離職者数も上昇しており、女性だけの問題では無くなってきているというのが現状です。
また、平成24年度・平成29年度の就業構造基本調査の結果によると、介護をしている年代にも、変化が生じています。以前は、介護をしている15歳以上の人口の中で、55歳〜64歳の占める割合が、他の年代より突出して高い傾向がありました。それに対し、近年のデータでは、介護を行う人口に対する割合の数値は、40代の時点から高くなっていることから、介護を始める年代自体が下がってきていると言えるでしょう。
(出展:総務省統計局「就業構造基本調査結果」より)
介護離職はキャリアを形成する上で、本人だけではなく、企業側にとっても、さまざまなリスクがあります。本人にとって、介護で働けなくなることは、将来にわたる経済的な負担を背負う危険性が伴います。これまで社内で培ってきたキャリアを手放してしまうことから、出世による昇給のチャンスを逃してしまうことも起こるかもしれません。
また転職が必要となる場合、一からキャリアを積まなくてはいけなくなるので、将来的に受け取れる収入金額が減ってしまいます。さらに、キャリアに空白の期間を作ってしまうことによって、介護離職後の社会復帰にも影響が及ぶ可能性がないとは言い切れません。再就職を希望したとしても、年齢的に採用が厳しくなるというリスクもあるのです。
企業側にとっても、人材不足になるだけでなく、40代以上の年代が介護によって離職してしまうことで、重要なポストに就く人材を失う結果になってしまいます。次代のマネジメント層を十分に育成できないことにより、今後の経営において、大きな問題を抱えてしまう結果にもなりかねません。
仕事と介護を両立させるには、介護休業法に基づく支援制度を利用することが効果的です。政府は、介護離職を防止する目的で、仕事と介護の両立を支援するための、さまざまな介護支援制度を設けています。主に取り上げられる、5つの介護支援制度について、紹介します。
1年に5日(2人以上、介護の対象家族がいる場合は10日)まで、取得できる休暇制度です。半日単位での取得も可能ですが、1日の所定労働時間が4時間以下の場合や、半日取得が困難な業務の場合は、1日単位のみでの取得になります。対象家族の通院の付き添いや、介護サービスを受けるための手続き代行などでも利用可能です。介護休暇中は、給与が支払われないケースが大半ですが、企業によって待遇が異なるため、勤め先に確認しましょう。
2週間以上の長期にわたり、介護が必要になる場合に取得できる制度です。取得可能な日数は、対象家族1人につき、合計93日までになります。3回を限度に、分割取得も可能です。介護休業を取得している間は、給与の支払いはありません。しかし、一定の条件を満たすことで、給与の2/3程度の『介護休業給付金』が雇用保険から支給されます。基本、申請手続きは企業を通して行うので、企業の人事担当者やキャリアコンサルタントは、介護に関する給付金についての最新情報もチェックしておく必要があるでしょう。
対象家族を介護するために、1ヶ月以上1年未満の期間において、所定労働時間を超える、残業等をしないことを請求できるものです。請求できる回数に制限がないのが特徴で、開始日の1ヶ月前までに請求する必要があります。
時間外労働について、1ヶ月につき24時間・1年につき150時間までの制限時間を超えて、労働しないことを企業に請求できる制度です。1回の請求で、時間外労働の制限は、1ヶ月以上1年未満の期間利用できます。事業主へ開始日の1ヶ月前までに、事前に書面等で請求が必要です。
対象家族の介護を行うために、深夜の労働をしないことを請求できる制度で、午後10時から深夜の午前5時までの時間が対象になります。1回の請求につき、1ヶ月以上6ヶ月以内の期間に有効で、請求できる回数に制限はありません。ただし、所定労働時間の全部が深夜にある場合の労働者は、対象外になる可能性があります。
介護離職を防ぎ、介護と仕事を両立するためには、「行政機関・地方機関の相談窓口の利用」や「国の介護保険制度の利用」などの対策方法があります。企業が従業員に対して行える、介護離職防止の取り組みとしては、「柔軟な働き方の促進」や「従業員との面談の機会を設ける」といった対策が効果的です。
実際に、柔軟な働き方の実現のために、フレックスタイム制度・在宅勤務・テレワーク・短時間勤務を積極的に取り入れている企業は少なくありません。ある企業においては、在宅勤務制度の出勤制限等の大幅な緩和を行ったり、短時間労働でも効率的に成果が出るよう、業務プロセスの改善を実施したケースもあります。
また、面談の機会を設けることで、勤務地の希望についてのヒヤリングや、勤務時間の相談、介護支援制度の情報提供を行うことが可能に。制度の認知度を上げることは、介護支援制度の利用者数を増加させ、介護離職を防ぐことにつながるのです。自社の介護支援制度を解説した冊子を作成したり、社員全員の閲覧が可能なポータルサイトを設置することで、認知度を上げた企業の事例もあります。
仕事と介護を両立できるようにするためには、介護を行う本人の頑張りだけではなく、社会全体・企業全体が支援に取り組むことが大切です。今後、他世代より人口が多いとされる団塊の世代の大半が、要介護年齢になる時代が訪れます。介護をしながらでも働ける環境を整備し、介護離職を防止することは、労働者の持続的なキャリア形成と、企業の今後の人材不足の解消において必要不可欠です。介護を行う労働者が、離職以外の道を模索できるよう、介護支援制度の理解や、制度の活用推進を積極的にサポートしていきましょう。
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