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2020.02.20
早いもので2020年も2月が終わろうとしています。3月が年度末の企業の場合、今年度の「評価」をもとに「評価面談」の準備を始める時期でしょう。評価面談のやり方によっては、社員は「次年度はさらにがんばろう!」とやる気になることもあれば、逆にモチベーションを失ってしまうこともあります。
今回は、評価をする上で大切な視点や注意するポイント、評価面談の事例を通して上手にフィードバックをする方法などをお伝えします。
目次
そもそも企業にとって人事評価制度は何のためにあるのでしょうか。人事評価制度は、評価を与えて給与や賞与に反映させるためだけに存在するわけではありません。人事評価制度の存在意義は、会社の経営理念を実現する人材を育成し成長を促すためにあります。
そして、評価面談は評価を通して社員の内省を促すと同時にやる気を引き出し、活躍し続けてもらうために実施します。
評価面談をする前に、まずは適切な評価を行う必要あります。そこで、評価をする上で大切な視点をお伝えします。
近年は「成果評価」「プロセス評価」「能力評価」の3つの視点でバランス良く評価する企業が増えています。「成果評価」では、メンバーの業績、目標達成度とそこに至るまでの業務の遂行度などについて評価します。営業職の場合は売上金額をもとに目標達成度をはかるとわかりやすいでしょう。または本人が設定した目標の達成率でみることもできます。
業務の遂行度は業務の量や質、スピードなどで判断することができます。「プロセス評価」では、成果に至るまでの過程に注目し、適切な順序・やりかたで行動できているかを確認します。成果評価だけだと、短期的な間違ったやり方で成果を出す恐れがあります。また、たまたま運よく成果があがっただけということもありえます。
こうした成果主義偏重の弊害を避けるために、プロセス評価を取り入れることで短期的には成果が出ていなくても、成果に繋がるための行動や活動が適切にできていたかを評価することができます。行動を見ていくという点で「行動評価」と呼ばれることもあります。
「能力評価」では、職務を遂行する上で必要なスキルを習得できているか、業務を通してどのような知識や力が身についたのかを確認します。指導力や企画提案力、交渉力、技術力など、職務によって必要となる能力は異なります。
評価は人が行うものなので、どうしても心理的なバイアス(偏り)が生じてしまいがちです。このバイアスによってつけられた評価を評価誤差(エラー)と言い、評価をする上で注意する必要があります。代表的な評価エラーを以下にあげますので確認しておきましょう。
評価エラー | 内容 |
---|---|
中心化傾向 | 厳しい優劣をつけられず評価が中央値に寄ってしまう傾向。「今後の関係性が気になるため、低い評価をつけたくない」といった思いや、普段よく観察をしておらず相手のことがよくわからないといった場合に起きうる |
寛大化傾向 | 評価が甘めになってしまう傾向。メンバーとの軋轢を避けたいとの思いや、評価者が自身の能力に自信がない場合に起きうる。 |
ハロー効果 | 一つの特徴的な点の印象に引きずられてしまい、全体的な評価が引き上がったり、引き下がったりする傾向。ハローとは後光のことを意味し、特徴的な点だけで他の項目まで後光が差したかのように評価をしてしまう。 |
逆算化傾向 | はじめに評価を決めてしまい、帳尻を合わせるように中身を決めていってしまう傾向。メンバーの評価の総合点があらかじめ決められている場合などに起きうる。 |
論理的誤差 | 似たような事柄を関連付けて考えてしまい、事実ではなく推論(論理)で判断してしまうこと。 例えば、「彼は大学を中退しているから仕事も中途半端である」と判断してしまうのは論理的誤差である。 |
対比誤差 | 評価者自身のスキルや価値観を基準に相手を評価してしまうこと。評価者自身がプレーヤーだった時と今とでは環境が異なるにも関わらず、自分と比較してしまう場合に起きうる。 |
期末評価 | 評価期間全体ではなく、期末に近い出来事ほど、重みをつけて評価してしまう傾向。期中を通してずっと頑張っていたAさんと普段はあまり行動しておらず、評価の時期が近づいてから頑張ってアピールしたBさん。Bさんの評価を高くしてしまうのは期末評価である。 |
では実際に評価面談の例を見ていきましょう。
評価者「Aさんの今年度の業績から評価はこのようになった。私はもう少しAさんを評価してあげたいのだが、最終的には会社が決めるものだから何とも。もし評価に納得ができなければ人事部に問い合わせをしてほしい」
Aさん「これが私に対する会社からの評価なんですね、わかりました」
さて、この評価面談の問題点はどこでしょうか。明らかに良くありませんね。評価面談といっても決められた評価をただ伝えるだけになっていることやメンバーとの軋轢を避けようと自分がつけた評価ではないと伝えようとしています。
評価者は管理職である以上、会社の決定事項を自らの言葉で説明する必要があります。
メンバーが評価に納得しない場合は、双方の認識を刷り合わせるために丁寧に対話をすることが求められます。
では、次の評価面談の例はいかがでしょうか。
評価者「Aさんは今年度の目標を達成していてよく頑張ったと思う。しかし、この結果は環境による要因が大きいと思う。というのも私がメンバーだった時にはもっと厳しい環境下でAさん以上の業績をあげていたからね。もっと頑張れたんじゃないだろうか。この点についてAさんはどう思う?」
Aさん「はい。少しでも課長に近づけるように来年度はさらに頑張ります」
この評価面談の問題点はどこでしょうか。Aさんは来年度さらに頑張りますと言っていますが、本当でしょうか。課長からこのように言われてしまい本音を話すことができず、こう答えるしかないといったところでしょう。この面談の問題点は先ほど紹介した評価エラーの「対比誤差」に該当します。
どちらの面談例も極端な悪い例ではありますが、評価者が一方的に評価を押しつけています。メンバー本人の意見を聞こうとする姿勢がなく、本音を全く引き出せていません。
また、どちらも成果評価だけをフィードバックしていますが、プロセスや能力については触れられていません。このような評価面談ではメンバーは動機づけられるどころか一気にやる気を失ってしまいますので要注意です。
評価面談では、メンバーの成績・結果ばかりにとらわれ、評価を伝えるだけで終わってしまっては意味がありません。面談をするということは、評価を適切に伝えながらもその先に「メンバーを育成する」「成長を促進する」という視点を持つことがとても大切です。
この視点を持った上で、「成果評価」「プロセス評価」「能力評価」についてきちんと伝えていきましょう。まずはメンバーの良かった点を褒めることが重要です。
メンバー本人に「こういう工夫をした」「こんな能力が身に付いた」などの話をしてもらい、最初にポジティブなフィードバック行うことでメンバーが話を受け入れやすい状態になります。メンバーの育成、成長を考えれば、ポジティブフィードバックだけではなくネガティブフィードバックも必要です。
特に、本人評価とギャップがある部分については丁寧に対話をしていく必要があります。最初にポジティブフィードバックをした上で、「改善点を挙げるとしたら」「どんな点が足りていなかったと思う?」など言葉を選んで質問を投げかけることで、メンバー自身に内省を促すといいでしょう。課題が明確になったら、解決するための方法を一緒に考えていき、次のアクションに繋げていきましょう。
評価面談では、評価者の話す割合が3割、メンバーが7割の対話になるのが理想的です。メンバーに多く語ってもらえるようにするには、日頃からメンバーをしっかりと観察し、対話を積み重ね、信頼関係を構築しておくことが大切です。メンバーをよく観察し、対話を増やすために、以前にコラムで紹介した「1on1ミーティング」は有効な手段です。1on1ミーティングを定期的行い、期中の客観的事実の記録を積み重ねることで、評価面談の際に自信をもって評価をつけ、フィードバックを行うことができます。
最後に考えないといけないのが、ある評価者は適切な評価面談を実践できているが、別の評価者は全く実践できていないといったケースです。評価のやり方が組織内で揃っていないとメンバー間で不公平な状態が起きてしまいます。そのため、評価する側に対して「評価者研修」を行うことも重要です。評価者研修を行うことで、評価者として必要な心構えや人事評価制度、評価方法、評価基準などの理解を深め、評価スキルを向上させることができます。
研修を行う際には、知識や考え方のインプットに留まらず、参加者同士でディスカッションやロールプレイングなどを行うアウトプット形式で行うことが効果的です。インプットだけだと頭では理解していても、いざ面談をやってみるとうまくいかないということになりがちです。「わかる」と「できる」の間には大きな差があるのです。この差を埋めるためにアウトプット形式の訓練を行うことをおススメします。
例えば「評価面談模擬トレーニング」で実践に近い状態で評価面談を行ってもらい、評価を受ける側から評価者へフィードバックを行うことで自分ひとりでは気付けなかった新たな発見や学びが生まれ、評価者としての経験値が高まります。自社にアウトプット型訓練のノウハウやリソースがない場合は、外部の企業の研修をうまく活用するのも一つの手です。
会社の経営理念を実現する上で人材育成はとても重要なテーマです。評価面談の場はメンバーの現状の課題や今後の目標についてコンセンサスを得る絶好の機会となります。適切な評価面談を実施し、メンバーの納得感を醸成し、成長を促進していきましょう。
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