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「はたらく」と「旅」の関係性(法政大学大学院政策創造研究科教授 須藤廣氏)

セミナーイベント情報

2023.02.11

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キャリアコンサルタントコミュニティ「キャリコンサロン」のメンバー限定にて活動している旅部。1周年記念講演として、法政大学大学院政策創造研究科教授/北九州市立大学文学部名誉教授 須藤廣先生をお招きし、「働くことと旅すること」をテーマに講演いただきました。

スピーカー紹介

須藤 廣 氏

法政大学大学院 政策創造研究科教授 / 北九州市立大学文学部名誉教授
社会学・観光社会学・文化社会学専門。主にアジア各国や日本国内に自ら足を運び、フィールドワークを通して現地の実情を捉える研究。北九州と飲み会をこよなく愛する生涯現役バックパッカー。

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「はたらく」と「旅」の関係性

旅には、日常に同化(順化)するものと、異化するものの2種類があります。前者は、旅で日常から離れ、旅から日常に戻ると「さぁ、働こう!」と思うもので、旅することが現実を肯定することに繋がるもの。気晴らしやレクリエーションの要素が強い、いわゆる「観光」で、先生は「現状に対する麻薬効果」のあるものと定義されています。後者は、日常を問い直すような覚醒効果のあるもので、今回のテーマである「旅」はこの要素が強いもの。とはいえ、現実的には、日常を覚醒させる旅ばかりをしているわけでもないし、日常を肯定するだけの観光だけしていることもなく、両者は共存しています。

学問的見地から

ここからは少し学術的な内容に移り、E.Cohen「観光経験の現象学」の「5つの観光経験モード」に沿って、大衆的な観光から個人化するにつれて「旅の深度」が強化される、5つのフェーズを紹介いだきました。歴史を紐解くと、19世紀末にイギリスのトーマス・クックが禁酒のための「レクリエーション」として始めたのが観光の始まりだとか。そこから、気晴らしモード⇒経験モード⇒体験モードを経て、精神的中心が生活している場所よりも「旅先」にあるように感じ、地域の人と関わり一緒に活動するような「実存モード」になっていく。先生は、この「実存モード」の先に、さらに何かあるのではないかと思っていらっしゃるそうです。

日本人は、「生きているという感覚(リアリティ)をどこから得ているか

学術的な部分を離れて、いよいよ本題に。「働く」ということで生きている実感をつかむのか、「働くこと以外」で生きている実感をつかむのか、どちらでしょうか。1970年代以降、家族や労働でつかみづらくなったリアリティを人々はどこに求めたのか?

先生のご経験をもとにした持論として、「恋愛」と「旅」を切り口とした考察結果をお話しいただきました。懐かし(?!)の恋愛ドラマ、「男女7人夏物語」や「ロングバケーション」が流行った時代、日本人は「恋愛」にリアリティを求めていましたが、そこからテレビのトレンドは「進め!電波少年」や「あいのり」などへ移行。恋愛にリアリティを求めるのが難しくなってきたことや、円高を背景にした旅ブーム、バックパッキングブームもあり、「旅」にリアリティを求めるようマスメディアに誘導されてきたのではないでしょうか。1970年代までは労働の現場や家族生活で「生きている」実感を得ていたものが、恋愛や旅で「激しいリアリティがつかめる」と感じたことが、これらのTV番組が人気になった背景にあるのかもしれません。

そして2000年代以降は、越境的アイデンティティなど多様なリアリティを持つことが認知され、趣味も多様化し、「オタク」が世間に認められてきます。2010年頃からは、「オタク的生き方」と労働、が、「恋愛」や「旅」の中に入り込んできた、と先生は仰います。オタクの定義は、趣味>仕事。先生の教え子の中でも、アイドルの推し活のために高い収入を得られるところへ転職する、という方もいらっしゃるとか。従来の「自分探し」の旅から、趣味が入り込んだ「自分放棄・自己分裂」の旅、になってきているといえるのではないでしょうか。

2022年9月 タイの現地調査より見えてきたこと

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コロナ禍の中で、海外旅行が行けるようになり始めた(但しリスクは伴う)2022年9月上旬、タイに旅をしている人はよっぽどの旅好きだろう、と先生は現地調査へ。そこで出会ったのは、想定していたバックパッカーではなく、「極端な趣味の旅行者」。極端な趣味の旅行者もいくつかタイプにわけられるものの、旅している自分と、日常の自分を分けて複数の世界を越境し、アイデンティを分裂させながら、「分人」として旅する人の紹介がありました。
また、観光客は、自分の文化に閉じこもりながら異文化を体験する「環境の泡にいる」という従来の基本的な考え方に対して、コロナ禍により、自分の文化を飛び越える・越境する人が増えたのではないか、危険を冒してでも旅にでるのは「オタク」なのではないか、という考えを先生は持たれています。旅の中での自身の価値変容を「試みる」「楽しむ」だけでなく、「繰り返す」のは「オタク化」といえるのではないでしょうか。

まとめ

「旅」はどうしても時間をとるものなので、なかなか「働くこと」と両立ができない。働き方を変えていく必要がある。けれど、働きながら旅をする方法はきっとある!単なるレクリエーションではない旅のあり方を、皆さんで探していきましょう。

「アイデンティティ」は1つにしないといけないと思い込んでいるから、「本当のわたし探しの旅」は苦しくなる。そもそも、アイデンティティは分裂してよいもの。旅をしている自分も、働いている自分も、どちらも自分。相対的な関係性の中にある自分がいるし、自分の中の多様性があってよいのです。

参加者からのQ&A(一部抜粋)

Q)たとえばアイドルのコンサートを追っかけてタイまでいくのは?
A)オタ活の楽しいところは、コンサートと旅が結びついているところではないか。コンサートだけでなく、旅行そのものも楽しんでいる。「旅の仲間」の中でも細分化していて、オタ活仲間のつながりは案外、弱いのではないかとみている。例えば90年代のバックパッカーは、自分探しの旅として、自己に深く潜り込むが、オタクは深くは潜らない。趣味も切り替えがうまく、集中しすぎず、渡り歩くのがうまい。自分探しのためにオタ活をする人はいない。「自分探し」が流行らなくなってきているのもしれない。

Q)先生はなぜタイなのか?これまで危険な目に遭ったことはあるか。
A)これまで交通事故やスリにあったり、トラブルはたくさんあったが、やめようと思ったことはない。私(先生自身)がリスク専攻の人生なので、旅の仕方は繋がっているともいえる。タイはバックパッカーの聖地でもあり、居心地のよい場所でもあるから何度も調査も兼ねて訪れている。

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「キャリコンサロン」では、有志による部活動が複数存在しています。今回ご紹介しました旅部は、『楽しむ&知る&つながり』『旅&学ぶ&仕事の融合』をコンセプトに活動しています。