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2019.11.21
皆さんは「リーダーシップ」という言葉を聞いてどのようなものをイメージするでしょうか?
「先頭に立って指示や命令を的確に出すこと」「目的を達成するために力強く導くこと」などをイメージされる方が多くいらっしゃるかと思います。
リーダーシップという言葉を聞くと反射的にこのようなイメージをしてしまうのも無理はありません。これまでの日本においては、リーダーの強い意思と統率力をもとにメンバーを引っ張っていくリーダーシップスタイルが主流でした。
しかし、近年はビジネスの環境変化が激しくなり、働く人の価値観も多様になってきていることから、このリーダーシップスタイルとは正反対とも言える「サーバントリーダーシップ」が注目されるようになってきました。
今回は、サーバントリーダーシップについて、従来型リーダーシップとの違いやサーバントリーダーシップの注意点、これからの時代になぜ有効なのかについてお伝えします。
サーバントリーダーシップとは、「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後に相手を導くものである」という考え方に基づくリーダーシップスタイルです。これは、1970年にアメリカのロバート・グリーンリーフ博士が提唱した哲学です。
サーバントリーダーシップの「サーバント」には「使用人」「召使い」という意味があります。リーダーは、メンバーを奉仕の気持ちを持って支え、メンバーの力を最大限に発揮できる環境づくりを行います。そのため、サーバントリーダーシップは「支援型リーダーシップ」とも呼ばれています。
日本においてこれまで主流だったリーダーシップスタイルは、リーダー自らが先頭に立ち、トップダウンで指示命令を徹底させ、メンバーはリーダーの指示に忠実に従うことを求める「支配型リーダーシップ」と呼ばれるものでした。
支配型リーダーシップは、一定の品質を備えた製品やサービスを大量かつスピーディに世に送り出していく、高度経済成長期には大いに機能してきました。
しかし、現在は消費者のニーズが多様化し、企業は多様な商品・サービスに対応していかなければなりません。考慮すべき事柄、選択肢が非常に多く、リーダーがベストな解決策を一人で考え、指示し続けることは難しくなっています。
また、働く人の価値観も多様化しており、支配型リーダーシップでは、「メンバーがついてきてくれている感じがしない」「職場の雰囲気が重くメンバーからの意見が出てこない」といった状況に陥りやすくなります。
そのため、支配型リーダーシップとは正反対の「サーバントリーダーシップ」という新しいリーダーシップスタイルを正しく理解し、実践していくことが重要となります。
サーバントリーダーシップは、相手に「問いかけて、引き出す」コミュニケーションを行うため、メンバーは自由に発言しやすくなります。メンバーはリーダーから「命令」されて行動するのではなく、一人ひとりが知恵を出し合いながら行動します。自分の意見やみんなで考えた答えで動くため、当事者意識を持って業務に取り組みます。その結果、チーム力が向上し、成果をあげることが期待できます。
サーバントリーダーにはどのような特徴があるのか「NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会」が10の属性をまとめていますので確認してみましょう。(一部省略しています)
【1】傾聴 | 大事な人達の望むことを意図的に聞き出すことに強く関わる。同時に自分の内なる声にも耳を傾ける。 |
【2】共感 | 他の人々の気持ちを理解し、共感することができる。 |
【3】癒し | 集団や組織を大変革し統合させる大きな力となるのは、人を癒すことを学習する事だ。 |
【4】気づき | 自分への気づき(self-awareness)がサーバントリーダーを強化する。自分と自部門を知ること。このことは、倫理観や価値観とも関わる。 |
【5】説得 | 職位に付随する権限に依拠することなく、また、服従を強要することなく、他人の人々を説得できる。 |
【6】概念化 | 日常の業務上の目標を超えて、自分の志向をストレッチして広げる。制度に対するビジョナリーな概念をもたらす。 |
【7】先見力、予見力 | 過去の教訓、現在の現実、将来のための決定のありそうな帰結を理解できる。 |
【8】執事役 | 執事役とは、大切な物を任せても信頼できると思われるような人を指す。より大きな社会のために、制度を、その人になら信託できること。 |
【9】人々の成長に関わる | ひとりひとりの、そしてみんなの成長に深くコミットできる。 |
【10】コミュニティづくり | 同じ制度の中で仕事をする(奉仕する)人たちの間に、コミュニティを創り出す。 |
サーバントリーダーシップのサーバントという部分に注目が集まることで、リーダーはメンバーを支え、メンバーの主張を何でも聞き入れ、徹底的に奉仕する「優しい存在」と誤解される場合もありますが、それは違います。
リーダーがサーバントリーダーシップというスタイルでメンバーや組織に奉仕するのは、あくまでも目的を達成するためです。リーダーは、事業を通じて社会に貢献し、利益を生み出すといった目標を示す必要があります。その上でメンバーを支え、奉仕するのがサーバントリーダーの正しい姿です。
また、サーバントリーダーシップは全ての状況に適しているわけではありませんので注意が必要です。
知識が少なく経験値が低いメンバーでは、自ら気付き思考することが難しい場合があります。例えば、新人社員が多いチームでサーバントリーダーシップを実践してみても、メンバーは迷ってしまう可能性があります。
また、サーバントリーダーシップは、リーダーの意見とメンバーの意見が異なる場合、意見を摺り合わせ、組織の方向性を調整するのに時間がかかります。そのため、事業として短期的に結果を出さなければいけない状況には不向きです。
やるべきことが明確に決まっていて短期的な結果を出さなければいけない場合は、支配型リーダーシップで一つの方向に強く導いたほうが成果はあがるでしょう。ただし、支配型リーダーシップによって一方的な指示命令を受け続けた結果、メンバーが自ら主体的に考えなくなり、本質的なメンバーの成長が阻害される可能性があります。状況によって支配型リーダーシップとサーバントリーダーシップの両方を使い分けるといった方法も必要となります。
支配型リーダーシップとサーバントリーダーシップは、それぞれに適した環境があり、どちらが良い、悪いではありません。しかし、現在の時代背景を考えると、これからはサーバントリーダーシップが求められるシーンのほうが増えてくるはずです。
ビジネス環境の変化が激しく、消費者ニーズが多様化している現代において、支配型リーダーシップによってビジネスの解に辿りに着くのは難しいでしょう。それよりは、サーバントリーダーシップによって、消費者に一番近い距離にいる現場のメンバーの意見をボトムアップで経営に反映させたほうが理に適っていると言えます。
また、キャリアコンサルタントとして女性や若い方へのキャリアコンサルティングを行っている中でよくいただくお声があります。
「会社からはリーダーを期待されているが、私がメンバーを引っ張っていけるかどうか自信がありません」
この言葉の背景にあるのは、支配型リーダーシップのイメージが強くあるからでしょう。そんな時は「傾聴」や「共感」をベースにしたサーバントリーダーシップというスタイルがあること、それが求められている時代背景をお伝えします。すると、「それだったらリーダーをやってみてもいいかもしれない」と思っていただけることがあります。
一言でリーダーシップと言っても、様々なリーダーシップスタイルがあります。女性や若い方、どんな方でも自身の考え方に適したリーダーシップを発揮できる機会はきっとあります。
リーダーシップの型を正しく理解し、環境に適したリーダーシップを発揮していきましょう。