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2019.10.10
大学による学生に向けた「キャリア教育」が年々充実してきています。 そこで、今回は大学でのどのような取り組みが行われているかお伝えをしていきたいと思います。
まず、「キャリア教育」とはどのような意味でしょうか?
人によってイメージするものが違う可能性もありますので、まずはこの言葉の定義について考えておきたいと思います。
文部科学省に設置されている中央教育審議会(中教審)では、教育に関わる様々なテーマについて調査や審議がされていますが、中教審が2011年にまとめた「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」の中で、キャリア教育は以下のように説明されています。
『一人ひとりの社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育』
また、似たような言葉として「職業教育」という言葉もありますが、これは以下のように説明されています。
『一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度を育てる教育』
これらを踏まえると、
「キャリア教育」は、自立した個人として社会生活を送る上での基礎的な能力や考え方を育てること。「職業教育」は、職業に就くために必要な具体的なスキルや知識を教えること。2つの意味は大きく異なります。
さて、次に日本の大学におけるキャリア教育の広がりについて、簡単にお伝えします。
キャリア教育についての議論は、1999年に中教審が提唱したことから、本格的に進められてきました。
その後、様々な議論を経て学校現場で導入されていき、2010年に「大学設置基準・短大設置基準」の中で、キャリア教育の実施が義務化されて今日に至ります。
では、なぜ大学でのキャリア教育がこれほどまでに必要となったのでしょうか。
まず、理由として考えられるのは、大学の大衆化です。
現在は、18歳人口が減少する一方で、大学の受け入れ人数は変わらない、もしくは増加しており、望めばほぼ誰でもどこかの大学に合格できる「大学全入時代」となっています。
2009年には四年制大学の進学率が初めて50%を超えています。(過年度卒業生を含む)
これは、高校時代に自身のキャリアについて考えを深めず、職業の選択・決定を先送りしても、「とりあえず大学に進学する」という進路決定がより進んでいるということになります。
新卒で就職した若者の約3割が3年以内に離職する、という早期離職の問題は広く知られていますが、これらの若年者雇用の問題も、学校教育の段階でキャリア形成が十分でないことが要因だと捉えられているのです。
そのため、大学においても、学校教育から社会へのスムーズな移行を実現するためのキャリア教育が必要となりました。
それでは、大学で取り組まれているキャリア教育をいくつかご紹介したいと思います。
例えば上智大学では、大学を「社会に出る準備の場」と位置付けて、
・正課授業としてのキャリア教育科目の設置
・インターンシップ
・卒業生協力プログラム
・仕事についての理解を深めるための企業人との交流型セミナー
・論理的思考力やコミュニケーション力の基礎を身につける夏期集中講座
・国際派/留学経験者就職プログラム
と多彩なキャリア教育プログラムを学生に提供しています。
また日本で初めて「キャリアデザイン学部」を開設した法政大学では、高校生から大学4年生までを対象に「気づき」「成長」「発展」の3ステップに分けた自立型人材の育成のために、
≪①大学入学前≫ 高校・大学連携プログラム等で、大学で勉強する意義や大学での学びを自分の就業力育成とどう結びつけるのかを考え、大学進路への意識を明確化する
≪②大学1・2年≫ キャリア形成に特化した教養科目やキャリア形成プログラム等により、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力など社会人として必要とされる基礎的能力を養成する
≪③大学3・4年≫ 授業や講座を通して、職業に対する理解を深め、社会人として必要な知識を身につける
と体系だったプログラムを実施しているようです。
最後に大学のキャリア教育がより良いものにするには、どんなことが必要となるでしょうか。
まずは、「キャリア教育で育むべき能力」や「企業が学生に求める能力」を理解し、学生に対して適切に働きかけていくことが必要となります。
例えば経済産業省が提唱する「社会人基礎力」や、中教審がまとめた「社会的・職業的自立、社会・職業への円滑な移行に必要な力」の内容をしっかり理解し、学生の発達状況に応じた方策を講じる必要があります。場合によっては大学内外の様々な組織と連携した取り組みも必要でしょう。
また、学生一人ひとりに応じた適切な進路指導ができる体制も必要です。
ここでいう進路指導は、履歴書・エントリーシート・面接など企業の選考試験を通過するための短期的な指導に限りません。学生の自己理解や職業理解の促進、相談対応など、学生が納得したキャリアの選択ができるためのサポートも重要だと考えています。
このような進路指導の実施は、学生のキャリア形成にとって有効なだけではなく、少子化で経営環境が厳しい大学にとっても「選ばれる大学」となるための有効な施策となるはずです。
そして、これらのキャリア教育に、キャリアコンサルタントを始め専門スキルも大いに役立ちます。キャリアコンサルタントは、キャリアのプロとして様々な専門知識を持ち、傾聴スキルを基本とした関わりを行ないます。学生一人ひとりに向き合い、対話から各々の考えを引き出して問題を整理し、解決に向けたサポートすることが可能となります。
実際に、各大学の就職支援センターにおいても、キャリアコンサルタントなどキャリアの専門家が数多く活躍されています。
学校の教職員とキャリアの専門家と連携して、より良いキャリア教育を実施することで学生一人ひとりが自立してキャリア積み重ねていき、それぞれの能力を社会で発揮できるようになると信じています。
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