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労務
2019.07.28
最近、大手銀行での「男性の育児休業義務化」のニュースが話題になりました。男性の育児休業については、プラス面とマイナス面の両方があると言われています。プラス面としては、子育てという”マルチタスク”に関わることが、仕事のスキルアップにつながることや、女性の視点を考慮した判断が身につくなどが挙げられています。
しかし、その一方で、育休取得で仕事の現場を一時的に離れていたことがマイナスの評価になり、育児休業が昇進の足かせになる場合や、周囲の理解が得られず孤立してしまうなどのマイナス面もよく耳にします。
今回は、「男性の育児休業」について、様々な側面から取り上げてみたいと思います。
目次
そもそも「育児休業」とは男女問わず仕事と家庭との両立を支援するための制度の1つです。
子どもを出産した日から、その子が1歳の誕生日を迎える前日までの期間(つまり1年間)に一人の子どもに対して原則1度、申請した期間を休むことができます。この期間、雇用保険の被保険者の雇用保険から給付金が支給されます。
支給額は育児休業を開始した時点の給与額の50%(育児休業開始からはじめの180日間は67%)になります。収入としては減りますが、仕事と家庭との両立、スケジューリングなどから一旦離れて、新生児を中心とした生活をたっぷりと楽しむ貴重な機会を得ることができるという捉え方もできます。
福祉に力を入れている北欧の例としてスウェーデンの育休制度では、両親合計で480日間の有給育休の取得が可能です。しかも父親の約9割が育休を取得している状況があります。スウェーデンでは、男性が育児休業を取得することが社会的に受け入れられているため、会社側の理解と受容が大きいようようです。男女が全くイーブンに扱われる文化が出来上がっている国だと言えるでしょう。
しかし、日本では制度はありつつも、受容するための環境が整わないというのが現状です。日本で育休の取得状況は、2017年度の厚生労働省のデータによると、女性の取得率は83.2%であるのに対し、男性の育休取得率は5.14%に留まります。
政府は、2020年までに男性の育休取得率を13%へ引き上げる目標を掲げています。
その背景としては、労働力としての女性の確保が挙げられます。出産・育児が理由での女性の離職やキャリアの断絶を阻止するには、男性の育児参画の推進による「家庭生活と職業生活」の両立の支援が必要であると考えられてきたからです。
母親は出産直後から、授乳などの行為が発生するため、親に“なる”と親を“する”が同時にスタートします。
ところが、父親は「父親をする」ことを意識して行動、実践していかなければ、「父親になる」ことはできません。授乳、オムツ替え、沐浴、あやす、寝かしつけるなどの赤ちゃんのお世話をする行為は「母親でなければできない」という思い込みを持つ男性が多いため、いわゆる「ママじゃなきゃ神話」(ママでないとできないことがあると根拠なく信じられている俗説)が存在します。母親がそれらの行為を父親より得意とするのは、女性としての生まれ持った才能ではなく、こなしている回数の多さゆえだということは、意外と知られていないのかもしれません。
育休取得は、夫婦ともに親に”なる”ためにも、効果的な時間になるはずです。
では、男性の育休取得による男性のメリット/デメリットはどのようなものが考えられるでしょうか。
メリットとして、まずは、出産およびその直後から始まる育児による、母体の身体的・精神的な負担を直接的に減らすことができる点が挙げられます。
父親が出産直後から育児に関わり、母親の身体的、精神的な負担を軽減することには非常に大きなメリットがあります。この時期に夫が子育てにしっかり関わった夫婦は、夫婦、家族としての絆が強くなり、結婚後15年、20年ほど経った、子育てが落ち着く頃の夫婦関係が良好になるという研究結果(東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜さんの研究より)があります。同じ研究結果は、逆にこの時期に子育てに夫があまり関わらなかった場合、妻から夫への愛情がぐっと減るということも同時に示しています。
また、職場と家庭の往復しかしていなかった男性社員であれば、初めて育休生活の中で、地域での買い物など消費者としての今までにない生活者目線を手に入れることができます。どこで、いくらで手に入る、どこが安い、など今まであまり意識してこなかった買い物に関する情報や、母体の回復のため、赤ちゃんの離乳食の材料など、栄養面や健康面などの情報にも敏感になるでしょう。
実は育児という場面は、24時間意識をしなくてはいけないビジネスと考えると、実地でマネジメントスキルが必要とされる場となっているのです。
一方、デメリットとして、特に男性にとっては気になる点もあります。
まずは収入が減ることが一番に挙げられます。
そして、育休明けはブランクを挟んで仕事の現場に戻るため、どうしても職場における情報不足が起こり、不安な気持ちは付きまとうでしょう。
最近では、職場での男性の育児参加への嫌がらせとして、「パタハラ」という言葉を耳にすることも多くなりました。
男性の育休導入に積極的な企業もかなり増えてきてはいますが、
このように、メリットとデメリットを整理して考えると、男性が育休を取得するには職場の理解やフォローが欠かせないと言えます。職場の理解を得るためには、育休を取得したい意向を早めに明確に伝えるなど、根回しを含めて取り組む必要がありそうです。
では、企業側の視点として、育休導入はどのようなプラス要素が得られるのでしょうか。企業の人事担当として意識するべきポイントを3点に絞りお伝えします。
今や育休の制度ではなく、取得実績がある企業かどうかは新入社員が会社を選ぶ際の重要な基準の1つです。大学でのキャリア教育の充実も、そういった判断に影響を与えています。つまり、優秀な新入社員を確保するためには、社員が永続的に仕事も私生活も大切にできる風土づくりが非常に重要です。そのためにも育休が取得しやすくキャリアアップに活用できる環境づくりは入り口としての必須戦略と言えます。
”越境学習”とは通い慣れた会社という「ホーム」を離れた、地域コミュニティなどの「アウェイ」での学びのことを意味します。育休期間には強制的に「アウェイ」の環境に身を置くことになり、今まで通用していたルール(勤め先の独自の文化)が通用しない経験から、今までにない視座を得ることができます。生活者視点の獲得によって、商品開発や営業手段の気づきを得ることなどがそれに当たります。企業側は育休の促進により、こういった機会を意図的に演出することで、これから会社の中心となって活躍してもらいたい層の社員の成長機会と考えることができます。
育休からの復帰がしやすい職場環境は、介護や病気での休職などにも細やかな対応ができる職場でもあります。様々な制約(勤務時間の制限など)を持った社員にも活躍の場をもたらせる企業は、これからの変化の大きい社会においても生き残る企業だと言えます。育児を通じてパートナーシップの絆を強めた家庭は、家庭生活上、あるいは就労上の何らかの問題が起こった場合も、安易に退職や転職という選択肢を選ばずに夫婦で困難を乗り越えていけます。つまり、育休取得の推進は結果的に永く勤める社員を増やすことにつながります。
このようなプラス要素を活かし、企業が社会的責任とともに、必要とされる存在であり続けるためには、より育休取得をしやすい制度の充実や環境を整えることが重要と考えています。
現在は、男性社員が育児休業や育児目的の休暇を取得しやすい職場づくりに取り組み、その結果として育児取得が実現した企業が活用できる助成金制度(「出生時両立支援助成金」)などもあります。ぜひ積極的に検討をし、企業としてのアピール力を高めることも1つの手です。
※助成金支給にあたっては、様々な条件がありますので、是非HRラボにご相談ください。
今の時代は、子育てについて夫婦で共に役割を果たすことが、当たり前の世の中になりつつあります。
そして、実際に育休を取得した方の話をおうかがいすると、「デメリットよりもメリットのほうが圧倒的に大きい」という声を多く聞きます。皆様の周りでも、育休を取得したり、取得を検討したりしている男性も増えてきているのではないでしょうか。
しかし、なかなか環境が整わずに、断念せざるを得ない方が多いとも聞きます。
もし、今後のキャリアの中で、育休含めて不安や迷いがある場合は、早めにキャリアコンサルタントに、育休取得の向けてのプランを相談する手もあります。
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