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労務
2019.07.25
日本の総人口は平成30年10月1日現在で1億2,644万人、そのうち65歳以上の人口は3,588万人と、総人口に占める65歳以上の人口の割合(高齢化率)は、実に28.1%です。この超高齢社会にあって、大きな課題とされているのが、医療費の増加です。医療費が増加することで保険者(健康保険協会・健康保険組合)等の財政悪化が引き起こされ、結果として健康保険料の上昇という形で企業の負担が増加しています。
そのような中、企業が積極的に従業員やその家族の健康保持・増進に取り組むことで健康保険料の企業負担の増加を抑え、さらには従業員が健康であることが生産性向上・業績向上もつながるとして、近年注目を集めているのが「健康経営」です。
人事分野でトレンドともなっている「健康経営」について、基本的なところからおさえていきましょう。
「健康経営」とはどういった経営なのでしょうか。経営状態が健全であることでしょうか?または、健康に関する何かを販売する経営でしょうか??? 色々と想像が膨らみますが、健康経営とは「従業員の健康にスポットを当てた経営手法」のことです。
これまで従業員の健康管理は自己責任であり、企業に義務付けられている健康診断やストレスチェックは、企業にとってはコストでしかありませんでした。しかしながら、昨今の労働基準法や労働安全衛生法の改正により、長時間労働の上限設定や有給休暇の取得義務化、さらには健康情報取扱規程の策定義務化など、従業員の健康を保持・増進するための法令が整うとともに、ますます深刻化する少子高齢化による人材不足解消策として、今一緒に働いている従業員の活性化が今後の企業存続に必要なこととなってきています。
IT技術の進化によって業務効率化はある程度図れますが、実際に業務を行う従業員が不健康な状態であっては、本来のパフォーマンスが発揮できないため、せっかくの業務効率化も意味をなしません。従業員の勤務意欲が高く活き活きと働ける環境を整備し、働く従業員の能力を引き出せる企業になることが喫緊の課題なのです。
そのような背景のもと、従業員の健康を第一に考え、従業員の健康管理をコストとしてではなく、前向きな投資として捉え実践する経営が「健康経営」です。
健康経営の取り組みは実に様々です。従業員の健康をより良くするために何をしたら良いのかを基礎として、まずはコストをかけずにできることから始めましょう。
具体例)
ⅰ 階段使用・社内でのストレッチの実施
ⅱ 社員食堂・弁当で栄養バランスの取れたメニューを提供
ⅲ ノー残業デーや有休取得促進の仕組みを導入
ⅳ 職場での感染症対策(インフルエンザ予防接種の費用負担など)
ⅴ 分煙環境整備や禁煙プログラムの導入
ⅵ ストレス・メンタルヘルスに対する正しい理解の促進
ⅶ 睡眠とアルコールに関する正しい知識の習得
ⅷ ウォーキング、ラジオ体操の実施
ⅸ 1泊2日メタボ選抜合宿の実施
参考:健康経営ハンドブック2018 経済産業省×東京商工会議所vol.3
健康経営取組事例集 神奈川県ホームページより
その他にも、保険者(健康保険協会・健康保険組合)等と連携して推進していくことも有効な方法です。
健康保険協会では健康経営を推奨しており、「健康企業宣言」として「企業全体で健康づくりに取り組む」ことを宣言することで、宣言内容の取り組みをサポートしてくれます。
また、東京商工会議所では、経済産業省からの委託を受けて2016年に「健康経営アドバイザー」の研修プログラムを導入しており、この研修プログラムを修了した専門家を派遣してくれます。個々の企業・業種の状況に沿って、健康づくりの課題の抽出から改善・解決策の提案、具体的な取り組みまでサポートしてくれるので、活用してみるのもよいでしょう。
それでは、実際に健康経営を推進するにあたっては、どのように進めていけばよいのでしょうか。健康経営を実践するには、健康経営の取り組みが、経営方針から現場の施策までの様々なところへ浸透していることが重要です。①経営理念・方針、②組織体制、③制度・施策実行、④評価改善の4つの取り組みに分けられます。
なお、4つの取り組みの基盤として、「法令遵守・リスクマネジメント」が実践されていることが前提です。
図:健康経営の実践に向けた体系図
経営者が、社内外に「健康経営」を発信することが必須です。そのために健康保持・増進に対する全社方針を明文化し、情報を開示することが重要です。
従業員の健康保持・増進に向けた実行力ある組織体制を構築することが必要です。より実効性の高い組織体制とするためには、経営トップ、または担当役員を健康経営推進の責任者とすることが不可欠です。
健康経営の推進には、法令に定められた定期健康診断やストレスチェック等を実施していることが前提です。そのうえで、従業員の健康状態とその課題を把握し、必要な施策を検討・実践していくことが必要です。施策は、企業の特色に応じた内容(先に記載した具体例参考)となりますが、カテゴリーとしては、「ワークライフバランス(残業時間削減やリモートワークなど)」「食生活支援」「運動奨励」「受動喫煙対策」「感染症予防」「メンタルヘルス対策」などがあります。
取組の効果を検証する際、現状の取組の評価を、次の取組に生かせるよう、PDCAがしっかりと機能するような体制を構築・維持することが重要です。具体的には、施策の成果を、公の統計情報があるなどの明確な数値で表し、その経年変化を示すとわかりやすいでしょう。
これらの取り組み内容について、経営が先頭に立って、実際に健康経営に取り組んだ事例を1つご紹介します。従業員の健康が、会社の成長のためにも必要という考えで取り組んでいます。
健康経営に取り組んだ結果、プレゼンティーイズムの改善にまでつながっていることは、特筆すべき点です。
2019年4月に施行された働き方改革関連法により、さらに健康面に配慮した働き方が法的に求められています。
また、若手従業員の採用難による従業員年齢の高齢化、人材不足への対策としての高齢者活用など、従業員の健康が企業リスクとなっている現代において、「健康経営」は企業経営を行っていくうえでの重要なテーマです。事実、経済産業省ヘルスケア産業課「企業の健康投資ガイドブック(2014年)」によると、いくつかの先行事例では健康投資による効果が定量的に示されています。
今までの健康管理のみに留まらない『健康経営』に取り組むことで、従業員の健康保持・増進はもちろん、生産性向上や企業イメージの向上にまでつなげていきましょう。
健康経営を実践したその先には、従業員が高いやりがい、働き甲斐を持って活き活きと働く姿が待っています。
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