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パワハラ対策義務化が与える企業への影響 ~企業がすべきこと~

労務

2019.07.05

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先日のコラムでは、「ハラスメント対策不足が招く企業リスク」を取り上げましたが、今回は、ハラスメントの中でも、5月に発表された法制化で注目を集めている「パワーハラスメント(以下、パワハラという)」に焦点を当て、パワハラ法制化の背景や、法制化によって期待されること、必要な取り組みについてお伝えいたします。

パワハラ法制化の背景

労働施策総合推進法が2019年5月に改正にされました。これにより、企業にパワハラ対策が義務化されます。(大企業は2020年4月より、中小企業は同時期に努力義務でスタートしその後2年以内に義務化予定。)


パワハラの法制化は今回が初めてとなります。セクハラやマタハラについては、先に法制化(男女雇用機会均等法、育児介護休業法で義務化)され、企業にその対策を求めてきましたが、パワハラは企業の自主的な対応に委ねられていました。
しかしながら、働き方改革のきっかけの1つとも言える大手広告代理店で起きた過労自殺の問題において、その原因には、長時間労働とともにパワハラの可能性を指摘されることとなり、大きな社会問題となりました。

今回の法制化で義務化されたのは、企業が行う必要のある対策についてのみで、パワハラ行為自体の禁止規定については、業務の範囲との境界線が曖昧であるため、見送られました。また、今回のパワハラ対策の義務化とともに法律で初めて『パワハラ』という言葉が定義されたことも注目すべき点です。

法制化によって期待されること

今回の法制化によって、企業ではパワハラ対策を行わなければならなくなるため、その強制力は強いものとなっています。
今までパワハラ対策は、企業の自主性に委ねられていたため、必要性を感じていても、対応が後手に回っている企業も少なくありませんでした。今回の法制化を機に、各企業が、よりパワハラ対策を強化することになります。パワハラを未然に防ぐことが素地ができたと言えるでしょう。

では、このような動きの中、企業に求められるパワハラ対策とはどういったものなのでしょうか。法律上では、「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」とされています。

今後、指針によって具体的な措置の内容が明らかにはなりますが、厚生労働省が発行している告知物を見ると、以下の対策を勧めています。

①トップのメッセージ(組織のトップが、職場のパワーハラスメントは職場からなくすべきてあることを明確に示す)
②ルールを決める(就業規則において、パワーハラスメントの禁止や処分に関する規定を設ける)
③社内アンケートなどで実態を把握する (従業員アンケートを実施する)
④教育をする(管理職研修、従業員研修を実施する)
⑤社内での周知・啓蒙(組織のルールや相談窓口について周知する)
⑥相談や解決の場を提供する(企業内・外に相談窓口を設置し、職場の対応責任者を決める)
⑦再発防止のための取り組み(行為者に対する再発防止研修を行う)

これらの対策内容からわかることは、パワハラが発生してしまった後の措置(⑥&⑦)よりも、未然に防ぐための措置(①~⑤)が多くあるため、未然防止策を講じることがパワハラ対策では重要であることが言えます。
その中でも「④教育をする」は、社員の方々の意識改革にもつながりますので、「①トップのメッセージ」と併せて行うことで、社内の風土改善へと期待できる対策です。

2018年3月に公表された「職場のパワーハラスメント対策 取組好事例集」(厚生労働省)から各社の取り組みのポイントを見ても、「①トップのメッセージ」、「②ルールを決める」、「④教育をする」といった取り組みを強化されている企業が多くなっています。
パワハラ対策を、企業存続リスクの要素と捉えているのです。

パワハラの判断要素

パワハラであるかどうかの判断は難しいものです。厚生労働省ではパワハラを次のように6類型に区分けして表現しています。

1. 精神的な攻撃 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
2. 身体的な攻撃 暴行・傷害
3. 過大な要求 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
4. 人間関係からの切り離し 隔離・仲間外し・無視
5. 過小な要求 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
6. 個の侵害 私的なことに過度に立ち入ること

パワハラの判断が難しいのは、上記の項目に該当する場合であっても、「パワハラ」なのか「正しい指導」なのかがわからない点にあります。
「行為者にはパワハラの意図も認識もない」、「行為の言動も客観的に見ればパワハラだと断言しにくい」、「相手方が何らかの理由により「パワハラ」だと反応する」といったグレーゾーンに位置するものです。(下図参照)

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正しい指導の範囲であれば、パワハラに該当することはないのですが、この「正しい指導の範囲」が、個人の価値観によって異なることが多いため、この価値観の相違がグレーゾーンを生み、パワハラの判断を難しいものにしています。
これらをチャートにまとめてみますと以下の通りです。

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パワハラの判断が難しいとされる「グレーゾーン」を解消するためにも、従業員同士で事例をもとにディスカッションを行ったり、身近で起きていた時の対処法を考えたりなどの研修機会を作っていきましょう。日頃から、従業員一人ひとりに自分事として考えさせ、判断軸を持たせることが大切です。

いま、企業は何をすべきか

6月21日、国際労働機関(ILO)総会において、職場でのセクハラやパワハラなどのハラスメントを全面的に禁止した条約が採択されました。ハラスメントを巡る初の国際基準となります。国際的にも注目度の高いハラスメントですが、そのようなときに日本で法制化されたのがパワハラ対策です。  

企業としてパワハラ対策を行うことは、もはや待ったなしです。トップ主導で社内に向けて強いメッセージを発信し、社内ルールの明確化と社内研修の充実を図り、社員の意識改革を促進するという一連のパワハラ対策を、この機に見直していくべきと考えています。
その取り組み自体が、よりよい労働環境整備だけではなく、従業員一人ひとりの帰属意識の向上につながるはずです。