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労務
2019.06.18
先日、第198回通常国会で企業にパワハラ対策を義務づける改正法(労働施策総合推進法の改正)が成立しました。また、2017年度における全国の労働局等が受けた相談件数では、「いじめ・嫌がらせ」がトップとなり、これで6年連続トップとなっています。
その一方で、どのような言動が「ハラスメント」になるのかの線引きに悩む管理者も多く存在し、トラブルを避けようと部下への指導をためらうあまり、人材育成に支障が出ている事態にもなっています。このままでは企業の成長にも大きな影響を与えかねません。
そこで、企業としてハラスメントを正しく理解し、適切な対策を行うにはどうしたらいいのかを見ていきたいと思います。
「ハラスメント」という言葉を聞くようになって、かなりの年月が経ち、日常的に使われる言葉となりました。「セクシュアルハラスメント」、「パワーハラスメント」、「マタニティハラスメント」、「モラルハラスメント」などなど。「○○ハラ」と略して呼ぶことが一般的となっています。
「ハラスメント」は、フランス語の「harasser=ひどく疲れ果てさせる」を語源としており、その定義は、「他者に対する言動等が本人の意図とは関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えること」とされています。
2019年5月に行われた日本労働組合総連合会による「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」(全国の20歳~59歳の有職者1,000名)によれば、職場で何らかの「ハラスメント」を受けたことがあると回答したのが、全体の37.5%とおよそ4割の方がハラスメントを受けた経験があると回答しています。
また、「ハラスメント」は、一見すると上司と部下の関係(上司から部下へ)にのみ存在するものと思われがちですが、それは間違いです。同僚同士、部下から上司へ、さらには取引先との関係においても発生するのが「ハラスメント」です。
「ハラスメント」は、職場内のどのような関係性においても発生しうる可能性があります。
この「ハラスメント」対策は、今では企業存続の生命線の1つともなっています。知識と意識を積み上げていくことがとても大切です。まずは、考えられるリスクを挙げてみましょう。
「ハラスメント」に対して個人間の問題だからとあまり関心を持たずに対応をおろそかにしていると、企業にとって様々なリスクを招くこととなります。
そのリスクとは大きく分けて次の3つが存在します。
企業における業務中に発生した「ハラスメント」となれば、使用者責任や安全配慮義務違反による債務不履行責任などの責任を負うこととなります。
社内で「ハラスメント」が発生している状態を放置していたことで職場風土が悪くなり、職場の生産性を下がり、さらには職場の士気が低下してしまうことで、人材の流出が発生してしまいます。また、当事者がうつや適応障害となってしまい、業務を続けられなくなってしまうこともあります。
「ハラスメント」が理由でうつや適応障害を発症した場合には、労働災害として認定されることがあります。また、うつ状態が深刻な場合には、希死念慮が発生し、危険な状態になることもあります。さらには、「ハラスメント」の当事者や関係者がSNSにその実情を投稿することで、企業の実態が社会の目に触れることとなり、社会的信用を失うことにつながる場合もあります。
「ハラスメント」が招くリスクはとても重大です。
このようなリスクに冒されないために、企業としてどのような対策を取っておくべきなのでしょうか。
厚生労働省の指針によれば、ハラスメント防止のために企業が雇用管理上行うべき措置として、次の対応策を求めています。
1) 企業の方針の明確化及びその周知・啓発 |
2) 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 |
3) 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応 |
4) 職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置(マタニティハラスメントに限る内容) |
5) 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置及び周知 |
6) 相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨の定め及びその周知・啓発 |
上記6つの対策が企業にとっては必要であり、事前防止策として、まずは「ハラスメントは許しません!」とする企業の方針を社内に周知・啓発し、ハラスメント禁止に関すること及び相談窓口に関することを就業規則等に明文化するとともに、社内に周知する対応が求められています。
そして、相談窓口に相談が寄せられた際には、相談者等のプライバシーに配慮しつつ、迅速に関係者へのヒアリング(事実の正確な把握)を実施します。その後実際にハラスメントが発生していた場合には、被害者救済措置を行いつつ、加害者に懲戒等を行い、今後の改善を促す措置の他、再発防止に向けた取り組みを行っていきます。
ハラスメントは早期発見が重要です。そのために相談窓口を設置し、「何かあった際には
すぐ相談窓口へ連絡をください。」という体制を整えておくことが必要なのです。
しかしながら、ハラスメント相談窓口を設置しているにも関わらず、ハラスメントを受けた人の44%が「誰にも相談しなかった」という調査結果があります。
(「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」より)
この調査結果に示されているように、相談窓口を設定したからと言って、必ずしも相談に来てくれるわけではないのです。なぜでしょうか。それは、ハラスメントという問題が発生する要因について考えていくと見えてきます。
「ハラスメント」に限ったことではないのですが、労働問題の多くは単純に法違反があるという理由だけではなく、その根底には、必ず人間関係が存在します。人間関係があるところには、お互いの感情や価値観が交錯し、複雑に絡み合っています。
このような状況において、お互いがお互いのことを理解しようとせずに、自分の感情や価値観を押し通そうとしたらどうなるでしょうか。受け手からするととても嫌な気持ちになります。そしてそんな光景を見ている周りの社員も嫌な気持ちになり、職場全体がネガティブな雰囲気になってしまうのです。このネガティブな雰囲気こそが、「ハラスメント」が発生する大きな要因となっているのです。
ネガティブな雰囲気に汚染されずに、職場の雰囲気を良く保つためのポイントは、次の3つです。
1)良好な人間関係の構築
上司、部下、先輩、後輩、同僚間といった縦や横の関係において、良いことも悪いことも本音で話せる、そんな信頼関係が築けているかが重要です。
2)お互いを認め合う
多くの人が集まれば、そこには多くの価値観が存在します。仕事を行ううえでの価値観について、お互いに共有し、場合によっては許容しておくことが重要です。
3)ポジティブな感情を流す
人の感情は周りの環境に大きく左右されます。そしてその感情によって行動が変わってきます。どれだけポジティブな感情を職場に流し、影響を与えられるかが重要です。
ハラスメント対策において、最も重要なことは、上記の3つのポイントを踏まえたうえでの「良い職場風土形成」にあります。職場における人間関係を良質に保ち、社員一人一人が心理的に安心して働くことができる、そんな職場環境の整備こそが重要なのです。
そのためには、企業として理想とする良い職場風土の組織像を掲げ、現状分析、課題抽出を行い、それから具体的な対策を実行していくことが、ハラスメント防止に向けた適切な対策となります。
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