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ライフプランの再設計と『リカレント教育』 の重要性

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2019.06.03

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今から50年ほど前、すでに経済成長が停滞しはじめていた欧米諸国では社会の変化に適応するために労働者の「継続的な教育訓練」の必要性が提唱されていました。 生涯にわたる学習を支援する制度がある北欧のスウェーデンでは、「教育」を子どもから青年の時期だけに限定したものではなく、働きながらも生涯にわたって繰り返し行うものと捉えています。

 

このように、社会人が必要に応じて大学などの高度教育機関で学び直すことが「リカレント教育」です。リカレント(=recurrent)の意味には「反復、循環、回帰」などがあり、日本では回帰教育や循環教育と訳されています。「学び直し」と表現されることも多くあります。

昨今は、日本でも経済社会システムの改革が必要であると言われています。
働き方の多様化が進んでいることや、平均寿命が100歳までのびるという研究結果など、今までにはない社会の変化が起こっていることがその理由です。そういった背景から「人生100年時代」においてはライフプランの再設計が必要になりました。
同時に、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じる専門職である「キャリアコンサルタント(国家資格)」にも注目が集まっています。

レールの上をいく人生から、自らレールを敷く人生へ

働き手にとって、かつては就職した会社を60歳まで勤め上げ、平均寿命である80歳までの残り“約20年の余生”を過ごせば良かったのですが、「人生100年時代」では発想の転換が必要になりました。

「働き続ける期間が長くなること」により、転職や起業などの進路変更の可能性も存分に考慮した上での「職業人生の再設計が必要になった」ということです。
つまり、一つの会社内で通用するスキルのみを習得していれば良いのではなく、転職や起業によって業種や職種が変わっても通用するような、 持ち出し可能な能力(ポータブルスキルと呼ばれています)の向上や、新しい技術の習得などが必要となります。
そこで「リカレント 」という1つの選択肢を本気で検討しなければならない状況が生まれました。

国の施策も後押し

内閣府も幼児教育から小・中・高等学校教育、大学教育、更には社会人の学び直しに至るまで生涯にわたる学習の継続が必要であるとの見解を示しています。
労働者が何歳になっても必要な能力・スキルを身につけることができるような制度、仕組み作りも具体的に検討されています。

例えば
・教育機関との連携で、職業教育のための「専門職大学」「専門職短期大学」といった学び直しの場の設置
・通学することが難しい地方都市や子育て中の親を想定した「オンラインの学習システム」の拡充
・自らスキルアップをしようと資格取得や講座の受講をした場合に費用の一部が支給される「教育訓練給付金」の支給率や対象の拡大
などです。

日本でリカレント 教育が普及しづらい理由

しかし実際には、日本企業では履歴書の空白(就業していない)期間がマイナスとして捉えられる現状があります。これはリカレント 教育が普及しにくい理由の1つです。今後はリカレント のための一時離職や出産育児、介護により離職し再就職するまでの期間をキャリア“ブランク(空白)”ではなく、キャリア“ブレイク(休憩かつ充電期間)”として認められるような環境づくり、周囲の理解も必要になるでしょう。

アメリカではリカレント を普及させるための「サバティカル休暇(=長期間勤務者に対して付与される、使途に制限のない長期休暇のこと)」の制度がある企業も多く、日本との大きな差異を生んでいます。

また、自分をそのまま受け入れる感覚である「自己肯定感」が低いことも日本におけるリカレント 教育を阻害する一因だと考えられています。
すでに学校や塾などの教育現場において、自己肯定感を高めるために、自己理解を深め、得意を知り、能力を伸ばすための「キャリア教育」の重要性が高まってきています。ここにもキャリアコンサルタントの活躍の場があります。
社会人になって勉強の必要を感じた時にいつでもリカレント できるような「学習し続けるための力」を習得することも合わせて必要になります。

リカレント教育には家族の協力も不可欠

今後は「リカレント教育」を広く人生設計の一つとして捉えていく必要があり、新しい資格の取得といった狭い意味の学習で捉えるべきではありません。
また学び直しの過程で現実的に直面する課題もあります。資格取得に限らず、様々な学習には記憶力はもちろん、長時間の試験に対応する体力、そして何よりもモチベーションが必要です。

よって学習時間の確保が難しいことは覚悟の上で、引退後を想定するのではなく30代・40代の働き盛り世代にこそ、その先50代・60代での働き方を見据えた職業生活設計と学習計画が必要だと言えます。

では、どういった具体策があるのでしょうか。
昨年の厚生労働省の統計によると高齢者世帯を除くと共働き世帯が約70%を占める現状において、キャリアを個人だけで構築するものではなく、家族での協力体制で捉えることも有効な手段です。
長期的な視野で「家族というチーム」のメンバー内で、働き手や家事分担など役割分担を考えることでキャリアの選択肢が広がります。例えば育児休業などの制度を利用し、子育てを通じて職場以外での興味関心のある分野の情報を集めたり、まとまった学習時間を確保したりすることも可能です。

これで安泰という神話崩壊後の時代の教育

しかし、子育て世帯は子どもの教育資金を確保のためには収入を減らせない事情もあり、働き方を変えるこが難しいという悩みもあります。
ここで考えておきたいことは、これからの時代を生きる子どもたちへの教育が、親の世代と同じで良いとは考えにくいということです。
「安定した将来のためにどうすべきか」という価値観から脱却し、変化が早い社会へどのように対応していくかを子どもたちに示して行かなければなりません。親が自ら学ぶ姿勢を子どもに見せることは、子どもの学習に対する意欲を喚起できるといったメリットもあります。
子どもの性格や能力などの適性よって、教育資金を何に使うべきかを今後しっかりと検討し、見定めていくべきでしょう。

人的ネットワークも貴重な資産

また、家庭や会社以外の複数の組織に属することも、視野を広げ成長の上で、重要な助けになります。例えば、自治会などの地域活動、PTA活動、ボランティアやNPOでの活動などがそれに該当します。
こうした文化や価値観の異なる人的ネットワーク作りを行っておくことが自身の視野を広げたり、先々のキャリアの見通しにプラスに働いたりすることがあります。異業種や年齢層の異なるチームでの活動は自分らしさに気づくきっかけにもなるからです。

働き手の意欲は“資源”

このように人生設計の長期ビジョンの中に「リカレント 教育」を位置付けた上で、働き手が「何を、なぜ、どのように学ぶのか」といった学び直しの方向性を決めるためには、人事担当者やキャリアコンサルタントが従業員や相談者の興味関心を掘り下げて知ることが欠かせません。
企業やキャリアの支援者にはそういった純粋意欲に気づかせるための知識、技術などのノウハウが要求されることになります。

こうした働きかけによる意欲喚起はモチベーション向上につながり生産性が高まるというメリットがある一方で、多くの企業にとって従業員が純粋意欲に気づいて自主的に行動することは離職につながるのではないかという不安からキャリア支援の取り組みが消極的であることも事実です。
当然そういった人材流出のリスクと流入のメリットの両方を踏まえた上で、短期的な判断ではなく、長期的な成長を前提とした経営戦略の中で議論していくことが必要です。


働き手の意欲を『資源』として活用し、時流を見つつ先手を打つことがこれからの人事担当とキャリアコンサルタントに求められているのです。