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採用
2019.05.13
今回は、人事の分野で大きな注目を集めているHRテック(HR Tech)についてです。 HRテックの活用が日本企業でも普及している背景や、現場でどのような変化やメリットをもたらしているのかを、今後の動向も交えてご紹介します。
「HRテック(HR Tech)」とは、テクノロジーの活用によって人材育成や採用活動、人事評価などの人事領域の業務の改善を行うソリューション群を指す言葉です。
HR(Human Resources)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語となります。
最近は、「○○テック」と称したサービスの開発が盛んにおこなわれており、急速な勢いで発展を遂げていますが、従来からの業務にテクノロジーの掛け合わせることによって、新たな価値をもたらそうとしているのです。
その中で人事領域での「HRテック」では、AIやクラウドの活用や、ビッグデータの解析などによって、採用・育成・評価・労務などの領域での効果的な利用や、質の向上を目指すサービスが日々開発されています。
リファーラルなどの採用領域や、タレントマネジメント領域におけるサービス開発はその一例です。企業がどのように優秀な人材を集め、そしてその人材がどのようなスキルや能力を持っているのかを把握し、パフォーマンスを最大化するための人材配置や教育までも行うか、HRテックを通して考えられるようになっているのです。
このHRテックは、日本企業においても社会的な背景も伴い、導入が急速に進んでいます。
特に以下の3点がポイントとなります。
まずは、日本における労働力人口の減少が大きな要因です。2017年度の「将来推計人口」から将来の労働力を推計すると、今後は労働力人口は年々減り続け、2065年には6割程度にまで減少をすると言われています。将来を見越してその労働力を補うしくみが必要となってくるのです。システムでできる分野は、システムが担う時代です。
今後の企業経営の重要なキーワードの1つが「生産性の向上」です。企業の発展のためには、今の業務をより少ない人数で行える工夫をしていかねばなりません。そのために労働環境の再構築、つまり『生産性の高い働き方』への転換が必須課題です。日増しにIT技術を進化させているHRテックの導入が、欠かせない存在となってきているのです。
また、企業が競争優位に立つために、いかにして優秀な人材を獲得し続け、活躍してもらうかが、経営者にとって最重要課題となっています。
働き方改革による企業ブランド向上を実現し、国内だけではなく、世界中から優秀な人材を獲得していくことは欠かせない動きです。
多様な雇用形態を支えるために新しい管理システムは必要ですし、優秀な人材を見極め、適切な配置をおこなっていくためにもデータの力はますます重要となります。
従来、年功序列の考えに基づいた「職能給制度」を採用してきた日本企業において『人事業務』は、「人による感覚」や「慣行」で行われていた領域でした。
正確な能力の把握や人材分析を行わなくても、企業内の昇進時期などがおおよそ決まっていたため、HRテックのように新たな技術の導入は遅れがちとなっていたのです。
しかし、企業の海外進出やM&A、労働力の多様化により、人材の正確な把握を行い、より最適な人材投資を行うことが必然ともなってきました。
このような背景もあり、急速な変化を遂げているHRテックですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。特に大切なポイントは以下の通りです。
これまで紙で行っていた人事業務をデータ化できることで、その業務にかかっていた人件費コストが削減されます。
また、テクノロジーの活用によって、従業員の離職を抑えたり、定着率を高めたりすることで、結果的に採用費のコスト削減にもつながります。
HRテック関連のサービスは多種多様ですが、特に注目されているのが、人事データの一元管理・可視化・分析、定型業務の削減・オペレーションの効率化、従業員とのコミュニケーション円滑化による従業員満足度向上です。
特に最近注目されているのが「エンゲージメント」と呼ばれる分野で、社員の会社に対する愛着心や、やる気を数値化し、それを改善することで離職防止や適切な人材配置につなげています。
HRテックは、日々のマネジメント業務にも有効です。タレントマネジメントに代表されるように人材の見極めにも活用できることはもちろん、組織内で意欲が落ちている社員をいちはやく特定し声をかけるしくみをつくるなど、従業員一人ひとりに対応したマネジメントとしても効果を発揮するのです。
急速に導入が進むHRテックではありますが、一番の課題といえば、参入企業が多くどのサービスを選べばよいかわからないということでしょう。
HRテックの現状は、HR Techナビと株式会社ウィルグループの共同企画で作成された「HR Tech業界カオスマップ」がよくわかります。多くの企業がこの分野に参入をし続けている状況です。
こちらの中だけでも8カテゴリーに300種近いサービスが掲載をされています。
これからもHRテックのサービスは開発され続けるはずです。
この中から、最適なサービスを選ぶには、自社のビジネスモデルや事業環境、組織を俯瞰したうえで、競争優位を維持するための人材戦略を考え続けることが必須となります。
また、せっかくの導入後、HRテックを活用しきれないことも、多くの企業で抱えている悩みです。人事戦略の中で、HRテックをどう位置づけるか、誰が運用するかなどをしっかりと考えてから導入を行う必要があります。
「事業成長のために、どのような企業文化を作るのか?」 「人事業務の中でアウトソーシングや自動化すべき部分はどこか?」 「逆に内部でやり続けるべき事は何か?」
各企業の人事担当は、自社における課題と未来の姿をしっかと検討した上で、必要なサービスを見極める「眼」が必要となるのです。
今後、HRテックの進化は、企業の組織や採用におけるあり方を大きく変えていくと考えられます。市場予測としても、急拡大を続ける分野です。
企業経営をスムーズに行っていくためにも、HRテックの導入は避けては通れないでしょう。
さらに今後の動きとしては、テクノロジーによる業務の効率化の先には、企業が求める人材の戦略的な採用活動に加えて、人にしかできない役割(たとえば、従業員との対話や共感、関係性の改善など)や、イノベーションを創造することに注力する時代になるはずです。
これからの人事担当は、経営ビジョンに基づいた人事戦略を計画でき、より効果的に、採用/育成/労務/組織開発/海外人事戦略などといった業務を推進するためにHRテックは欠かせないものになるはずです。
日ごろからHRテックの動向に気をかけながら、効果的に活用していきましょう。
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