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2024.12.10
HRラボでは、人事・キャリア支援者のための実践塾「浅井塾」塾長浅井の経験と深い考察をもとに、 実践的な知見をお届けする場としてコラムを定期発信しています。キャリア支援者や企業人事の皆さまが直面する課題に対し、新たな視点や実践的なヒントを提供することを目指しています。
今回のテーマは、「ロールモデル不要論」です。
女性の活躍推進が騒がれ、女性管理者比率の向上を目指す企業では幹部や上層管理職へ出世していった女性をロールモデルとして示し、 ひとりでも多くの女性社員に上昇志向を植え付けようと弛まぬ企業努力が続いています。 今日では、女性の活躍推進だけでなく、シニア社員の活躍推進にも焦点が当たり、 まるで女性社員のときと同じようにシニア社員のロールモデル探索に一生懸命な企業が増えています。
目次
私が勤めているNTT コミュニケーションズも例外ではなく、管理職になっていなくてもベテランの範となる働き方をしている50 代社員にインタビューを行い、研修や面談の場などで紹介するようにしています。
しかし、そういったロールモデルを紹介する立場でありながら、こんなことを思うことがあります。
「我々が“範”だと思っている社員の働き方と、多くのベテラン社員が求める働き方は一致しているのだろうか?」
「そもそも、残り10 年を切った人にロールモデルを示す必要があるのだろうか?」
「もし、必要だとしたら、それはいったいどんな人なのだろうか?」
企業がロールモデルを示すとき、その目的は「こうやって成功した人がいる。
あなたもこの人の行動を真似て、企業に貢献する人になってほしい」と言ってモチベーションをあげてもらうことです。
ロールモデルを示されて「自分もあの人のようになりたい」と思う人がたくさん出てきてほしいのです。
しかし、勘違いしてはいけないのは、ロールモデルというのは「こうすれば成功する」ということではありません。
「こうして成功した人がいる」というだけです。現に面談で「あの人のようになりたい」と言った人は山のように見てきましたが、あの人のようになった人を私は見たことがありません。ロールモデルというのは、たまたまこうやって成功した人がいるというサンプルに過ぎません。
結局のところ、才能とタイミングにたまたま恵まれた人がなれるのであって、何百人に一人の存在だからロールモデルなのです。
裏を返せば、その人と同じような努力をしてきたにも関わらず、成功できなかったという人がその何十倍、何百倍もいるのです。
つまり、これまで会社が示してきたロールモデルというのは「再現性がない」と確信を持って言えます。
「そんなことはわかっているよ」と言われそうですけど、ロールモデルはやっかみの対象になり、それをおもしろく思わない人は、自分を評価してくれなかった会社に対する恨みや憎しみを生んでしまうなど、悪影響を与えているケースも少なくないのに、それでもロールモデルを示し続けるのは、企業として問題があると思います。
私の面談経験からは、ロールモデルを示すことにより行動が大きく変わることができるのは、そのロールモデル、
つまり、会社がこうなってほしいと示すものと自分がこうなりたいと思うものとが一致したひと握りの人に過ぎません。
多くの人は残念ながら冷めた目で見ている人が多いようです。
「成功体験を聞いたところで、自分が成功できるとは思えない」
「成功体験を聞いて、自分も成功したという話を聞いたことがない」
「その人は仕えてきた上司に恵まれただけ」
「その人とは仕事の内容が全然違うし、家庭環境も違う」
「第一、目指しているところが違う」
「そもそも能力が違う」
浮かばれなかったベテラン社員たちが発するコメントですが、まったくその通りであり、説得力があります。
だからと言って私はロールモデル否定派ではありません。確かにロールモデルとして奉られる人は、結局のところ才能とタイミングにたまたま恵まれた運のいい人であり「再現性がない」というのは私の正直な気持ちです。
しかし、私がロールモデルを否定できないのは、2つの理由があります。
ひとつは、自分には可能性は低いと思いつつも、「あの人のようになりたい!」と思うこと自体は人間的に健康な精神状態であると思うからです。
ベテラン社員たちのコメントに説得力はありますが、それと向き合おうとせず、斜に構えてしまっているから良くないのです。
もうひとつは、成功者と同じ道を目指し、かつ、その可能性を秘めた一部の人は成功者の話にとても刺激を受けるからです。
女性の場合は、出世という観点でロールモデルが示されること多いので、負け組の方が圧倒的に多いヒエラルキー社会において、別の考え方が発生するのは仕方がないことかもしれませんが、ベテランの場合は「こうやって活躍している」という「働く姿」の範を示すケースが大半です。
それでも素直に受け止めることができないとしたら、どういうロールモデルを示してあげればいいのでしょうか?
恐らくそれには答えがあり過ぎるか、答えがないかのどちらかだと思います。価値観が多様化してきた今の時代において、人の幸せの定義は様々です。
つまり、価値観ごとのロールモデルをいっぱい示すのか、「何が幸せか?」「幸せになるためには何をすべきか?」という思考法を教えるしか手がないと思うのです。
今、企業はそのどちらもできずに悩んでいます。前者は現実的ではありませんが、後者はキャリアコンサルタントが思考法を教えることで可能であると考えます。
最後にひとつだけ、Q&A を。
A:無理です。なぜなら、あなたはロールモデルではなく「あなた」だからです。
だから、自分のスタイルを見つけましょう。ロールモデルの話を聞いて意味があるのは「自分が新たなロールモデルになろう!」という意志を持つ人だけです。
私は毎年「この人こそロールモデルだ」と思える人と数人出会いますが、みんな自身のスタイルを築いた人ばかりです。
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